主要統制組織の実態

 北朝鮮の住民査察機構は、国家安全保衛部と社会安全部の2大山脈により行われている。前者は、政治犯、後者は、一般刑事犯がその捜査対象となる。この外、幹部階層の非違摘発に重点を置く国家検閲委員会と住民の思想指導を担当する社会主義法務生活指導委員会がある。しかし、普通、日常生活の統制は、人民班組織を通して行われる。

(1)人民班

 人民班は、洞・里・邑・労働地区人民委員会の統制下に班員の生活指導と思想動向把握及び班内外部訪問者の監視等の任務を遂行している最末端の組織である。

 各人民班には、班長、世帯主班長、衛生班長、煽動員、秘密情報員がいる。班長は、所属住民達の推薦形式を経て、郡・市(区域)人民委員会から指名されるため、大部分、職場に出ない女性党員や幹部婦人が受け持つ。世帯主班長は、人民委員会ではない労働党から指名される。従って、世帯主班長は、選挙等の行事時、人民班を統制する。衛生班長は、人民班内の環境責任者である。煽動員は、班員達の思想教養を担当するため、人民班内の党員達により構成された党分組の責任者を兼任している。秘密情報員は、国家安全保衛部又は社会安全部から配置された監視員である。

 人民班においては、月2回生活叢話をもって養育問題、労力動員、清掃動員、公共秩序維持、事件事故伝播等の各種問題を討論して自己批判も行っている。

 北朝鮮は、1994年初め、人民班の組織を既存の20〜30世帯から20〜40世帯に拡大改編した。これは、大規模なアパートの建設等による人口の密集化により人民班の組織の拡大の必要性が台頭したのと、班長を少数精鋭化する一方、一部有給班長に要求される労賃(1人当たり月30ウォン)を節約するためであろう。

 金日成死亡後には、人民班長の権限も強化された。有給人民班長を、農村を除外した全国に拡大して、労賃も68ウォンに引き上げた。食料も無職者支給基準量300gではない700gずつ配給している。

(2)社会主義法務生活指導委員会

 住民達が法規範と規定通りに生活するように「法務生活」を指導監督する準司法機関として、協議体形式により運営される。1977年12月の最高人民会議第6期1次会議において、金クボン演説を通してこの委員会の設置の事実が始まったとされる。

 司法機関及び査察機関とは異なり、国家検閲委員会と共に中央人民委員会に所属しており、住民生活に対する法的統制と共に遵法教養等の任務を平行して実施する。

 各地域別に該当党責任秘書兼人民委員会委員長、社会安全部長、人民委員会法務担当副委員長等の各地域の関連指導幹部5-6名により構成される。

 この委員会には、該当地域において発生する各種社会及び経済事犯に対する懲戒と処罰方針決定、各種規定及び法律を執行する過程において解釈上の差異により引き起こされる各機関間の紛糾及び誤謬事項等に対する有権的解釈等の権限と任務が与えられている。

(3)社会安全部

 社会安全部は、1945年の解放当時、内務省傘下の1局の形態で出帆、社会安全省として独立したが、1972年12月の憲法採択と共に社会安全部に改名された。以後、1982年4月に党秘書局傘下に改編されたが、1986年12月の最高人民会議第8期1次会議において再び政務院傘下に戻された。

 本部は、平壌市西城区域ヨンモッ洞に位置している。一線機関としては、道社会安全局、市・郡社会安全部、区域安全部、分駐所で構成されている。

◇捜査グループ

 社会安全部では、重要事件発生時、該当市・郡安全部から当初「捜査グループ」を組織する。構成要員は、監察指導員、捜査指導員、護岸課指導員(火災発生時)である。すなわち、各部署から専門要員を招集して、統合・運用する合同捜査本部格である。

 当初組織された捜査グループが事件を解決できない場合、上級部署から再び組織される。新たに組織された捜査グループは、当初の捜査要員中、必須要員1〜2名のみ残し、残りは、道内最精鋭の捜査要員を選抜する。

 捜査グループが組織される場合は、殺人、銀行襲撃、重要対象物放火、市・郡安全部部長級以上の幹部のテロ、収監囚脱走事件等である。

 捜査グループは、非常設置機構として事件発生時のみ市・郡別に構成され、該当市・郡安全部に捜査本部を設置・運用する。グループに動員されたときには、所属機関業務は遂行せず、捜査解決にのみ専念する。

 市・郡級以上の安全部別に捜査グループを組織編成する毎に、号数が付与されるため、該当市・郡安全部管轄内の大規模事件発生の頻度を知ることができる。例を挙げると、15号捜査グループは、15番目の捜査グループを組織したことを意味する。

◇社会安全部、「公民登録文件」二重管理

 社会安全部は、全国の市・郡安全部から担当地域内の居住住民の「公民登録文件」(俗称、住民登録文件)を維持する一方、これとは別に傘下の8局から慈江道長江郡香河里に独立庁舎を置き、全体住民に対する個人別「公民登録文件」を管理登録している。二重に社会安全部8局が管理する文件は、韓国及び海外居住の北朝鮮出身を含む全体住民の解放前の経歴は勿論、北朝鮮政権出帆以後、身上変動事項を詳細に記録した内容により、生命及び生年月日さえあれば、探し出せるように1人当たり1綴に編纂、維持されている。

 これにより、全国の市・郡安全部では、管轄地域内住民の身上変動事項があった場合、自身の「公民登録文件」に記録すると同時に、8局に報告している。

 このように、社会安全部8局から全体住民の「公民登録文件」を別途に管理する理由は、一線の市・郡安全部の文件が火災等により焼失した場合に備えるためである。同時に、2つ以上の道にまたがる犯罪捜査等、「公民登録文件」がどこにあるのか分からない対象者の身上把握時に活用されることもある。

(4)国家安全保衛部

 国家安全保衛部は、主席直属の情報及び捜査機関として各道・市・郡の行政単位は勿論、最末端の行政組織である里単位まで職員を常駐させている。特に、金正日の国防委員長推戴(1993年4月9日)を契機に「国家保衛部は、過去の匪賊と争っていた時期ではない現代の情報戦に合わせて運用されなければならない」と指示することによって、組織を戦時体制に編成して名称も国家保衛部から国家安全保衛部に改称する一方、金正日が管掌する国防委員会の傘下に置くようにした。

 これにより、「国家安全保衛部」は、一般司法機関である社会安全部、検察所、裁判所等は勿論、党・政機関より超法的な権力を持ち、ただ金正日の指示に従う上級保衛部(郡保衛部→市保衛部→国家安全保衛部)の指揮にのみ服従する従的関係を形成、最高の権限を行使している。

 軍内国家安全保衛部格である「人民武力部保衛局」の場合も捜査課の人員を密に増して盗聴を担当する探索課を新設する一方、過去の軍保衛局を統制していた政治要員に対しても嫌疑だけあれば内査できる権限を付与、党政策遂行要員まで監視できるようにした。

 この他にも、国境地帯には小隊単位、後方には連隊単位に保衛軍官を1名ずつ常駐させて小隊別に数名ずつ諜者を植え込み、全ての兵士の動向を監視している。

(5)その他の一時的組織

 北朝鮮は、常設公安機構の外、随時に関連機関合同で住民統制組織を構成している。これらの一時的組織は、明らかな業務領域があるものはない。大部分の住民の思想逸脱現象防止に集中している。

◇非社会主義打破グループ

 北朝鮮は、1992年初めから金正日の「非社会主義反対闘争運動」指示に従い、全国的に「社会主義打破グループ」を組織運営している。組織は、地方都市の場合、総責任者は道党責任秘書、行政責任者は道安全局長、政治責任者は道党行政部長、執行要員は党安全局監察処長及び道検事である。

 主要策出取締対象は、国家物資略取、窃盗、浮華、巨姦、迷信行為、無職、収入と支出が合わない豪華生活者等である。

 この「グループ」は、昼夜間を問わず、事務室、作業場等の勤務現場は勿論、家庭にまで不意に入り、窃盗の有無、中国等海外からの物品搬入の有無、韓国産物品の使用の有無等を把握している。また、「南朝鮮が中国丹東を通して新義州に軍隊を浸透させようとしている」、「南朝鮮は、米国の援助を受けているため、米軍さえ撤収すれば滅びる」、「南朝鮮でも金日成大元帥様とむやみに対することはできない」という根拠もない内容を教育している。

 深夜には、随時に空気(一般)、風(緊急)、爆風(大緊急)等に区分された民防衛隊非常召集訓練を発令することもある。甚だしくは、訪北僑胞や外国人旅行者に「全てを見たら、直ぐに帰れ」と圧力を加える等、反社会主義思潮の浸透防止に尽力している。

 当局では、同グループの活動以後、密造酒製造を根絶させることにより食料浪費を防ぎ、増加の一途を辿る不良少年の数を減らし、闇取引及び巨姦行為を抑制させる等、社会全般に蔓延している各種非理を抜本塞源するという評価を下している。

◇6・4グループ

 北朝鮮は、金正日の指示(1987年6月4日)に従い、市・郡単位別に安全員と保衛部員により構成された「6・4グループ」を編成、運営している。

 最近、経済難の長期化による窃盗行為が盛んであり、社会綱紀まで弛緩し、これらの「6・4グループ」を取締活動を活性化する一方、摘発された犯法者に対する処罰を強化している。

 犯法者に対する処罰内容を見ると、以前は安全部拘留場に1週間収監、批判書作成等の主体思想教養を主としたが、現在は単純窃盗者・勤務怠慢者・無断欠勤者等、取締者達を老若男女を問わず「強制労働集結所」に収監している。

◇住民巡察隊

 北朝鮮は、1992年から分駐所別に工場・企業所労働者中、特殊部隊出身の青年10余名により構成された労働者糾察隊を組織し、犯罪頻発地域の検問検索活動を実施している。しかし、糾察隊が犯罪取締より「この機会に上手くすれば、拾い物ができる」というやり方で蓄財の機会として悪用、各種非理を量産することにより住民達の怨みの声を受けたため、1993年末から1994年初めにかけて労働者糾察隊を解散した。

 非理内容を見ると、農民市場や配給所等の金品が生じるところのみ探して取り締まり、 仮に犯罪者を逮捕したとしても賄賂等、少しの利得が有ればその場を離れたり、女子を強姦する等、むしろ犯罪行為まで働いていた。

 安全部では、労働糾察隊解散以後、住民20〜30世帯当たり監視員1名を月30ウォンずつの報酬まで支給し、各種犯罪者を密告登録する一方、分駐所別に「住民巡察隊」を新編して活用している。

 同「住民巡察隊」は、以前の労働糾察隊のように工場・企業所の除隊軍人中、体力が秀でた者を選抜して構成するが、成分が良い者のみを厳選する一方、取締対象を窃盗犯罪に限定することにより非理の下地を事前に除去することが特徴である。

◇流動グループ

 北朝鮮は、最近になって全国の区域安全部単位まで安全員(大尉級)と安全部政治大学卒業予定者(少尉)2名を1個組に構成した「流動グループ」、別名移動取締班を設置して運営している。

 「流動グループ」は、外貨稼ぎ事業体の不法商行為等、急増している経済事犯の取締に重点を置いている。必要な際、担当区域に関係なく全国どこにでも入って捜査できる権限を付与され、身分証の他、武器携帯証まで発給され常に拳銃を携帯しているという。

 一例として、1993年9月、咸北清津市金策製鉄所の第2鋼鉄職場の初級党秘書と炉長等、3名が鋼鉄6トンを輸出し、清津市羅南区域ナクウォン洞所在の6軍団後方部外貨稼ぎ事業体に渡された際、潜伏勤務していた羅南区域安全部流動グループに逮捕された事件が発生したという。

◇社労青「不良青少年課外教養指導事業部」

 社労青では、北朝鮮内の社会秩序紊乱行為が急増したため、1994年中頃に「不良青少年課外事業部」、道単位社労青に「不良青少年担当指導員」職制を新設した。同組織は、強盗・窃盗・強姦等の犯法者、職場及び学校の欠席が頻繁な者、資本主義風習を流布するか模倣する者等、不良青少年を教養・先導する任務を遂行する。

 すなわち、工場・企業所、協同農場、高等中学校、専門学校、大学校等の各級単位である。

 社労青からは、不良青少年の名簿を通報され、不良の程度が重い者は、安全部に移牒し、比較的軽微な者は、市・郡単位生け捕り庁において随時に思想闘争会議(1〜3回)、指導員との個別面談を実施し、先導するようにしている。勿論、これらの動向を随時把握、非法行為が再発する場合、3ヶ月〜1年間、労働教養所に収容している。

◇平壌の「祖父糾察隊」

 平壌では、1991年から金正日が「健康のために3万歩以上、歩かなければなりません。」という指示に従い、「日曜日歩こう運動」を実施している。これに従い、日曜日になれば、バスは、配車時間を大幅に増やして運行までしている。このとき、平日の場合の停車場3ヶ所以内の距離は、全く乗車できないようにしている。

 しかし、住民達が歩行上の不便を感じたことにより、同事項を良く守らず違反する事例が多いため、年老保障祖父(年金を受けている退職老人)達を中心に糾察隊を組織、違反者を徹底して取り締まるようにしている。

 「祖父糾察隊」は、各停車場及び車内に配置され、停車場毎に乗車する者を調査し、3個停車場以内から乗下車した者は、名簿を別途に記録する。

 取締にかかり、違反者名簿に記録されれば、平壌3放送(有線放送)を通して、その名簿が発表され、3〜4回以上摘発され名簿が発表される場合には、1〜2ヶ月労力奉仕をさせた後、平壌市から追放するようにしている。

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最終更新日:2003/10/25

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